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鹿児島地方裁判所 昭和42年(レ)27号 判決 1968年2月05日

控訴人 柊野正恒

右訴訟代理人弁護士 村田継男

被控訴人 椨木真人

右訴訟代理人弁護士 浅原豊充

主文

1  原判決を取消す。

2  本件を加治木簡易裁判所に差戻す。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は、控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

≪以下事実省略≫

理由

一、記録によれば、被控訴人は原審において第一次的請求として鹿児島県姶良郡蒲生町米丸字宇都口四、五九五番山林二九歩と同所四、六一八番山林一反二畝との境界線は、被控訴人の昭和三九年四月一〇日付請求趣旨及原因訂正の申立書添付図面の(2)および(3)の各点を結ぶ直線であることの確認を求め、第二次的請求として同図面(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)(1)の各点を順次結んだ線の範囲の土地(以下「本件係争地」という)が控訴人および被控訴人において各持分二分の一を有する共有地であることの確認を求めたのに対し、原判決はその主文において右第一次的請求について何らの判断を示すことなく、しかも第二次的請求のうちその一部を認容しながら、その余の部分については何らの判断も示していないこと、そしてその理由中において本件係争地は同所四、五九五番の一部であると認められるから、上記第一次的請求は認められないとし、第二次的請求のうち原判決添付図面(8)'(8)(9)の三角区画を除いてその余の部分を認容していることが、明らかである。

しかしながら、被控訴人の上記第一次的請求は、いわゆる境界確認の訴であるから、控訴人の所有する同所四、五九五番山林二九歩と控訴人および被控訴人の共有にかかる同所四六一八番山林一反二畝とが相隣接せる土地である以上(この事実は、当事者間に争いがない)、裁判所は当事者の主張する境界線に拘束されることなく、自らその真実なりと認めるところに従ってその境界線を定めなければならず、従ってその訴の性質上請求棄却の判決をなしえないものであることは、つとに判例上確定しているところといわなければならない。従って、右第一次的請求が認容されない場合を予想するがごとき第二次的請求は、そもそも存在する余地がないのであるから、たとえ被控訴人が第二次的請求をなしたとしても、原審は宜しく釈明権を行使してその非なる所以を説示し、これを取下げさせるのが至当の措置というべきである。しかるに、原審はことここに出でず、上記第一次的請求については何らの判断も示すことなく、加うるに上記第二次的請求の当否を判断するに至っている。されば、原判決には裁判の脱漏があり、上記第一次的請求は依然原審に係属しているものと解すべく、従って追加判決によって補充されないうちに、もとの判決に対しなされた控訴は不適法であって、移審の効力を生じないものというべきである。しかも、上記第二次的請求は右第一次的請求について判決をすれば、その判決をなす必要のないものであって、この理に反した原判決は、理由不備の違法があり、到底取消を免れないものというべきである(仮に上記第一次的請求が境界確認の訴ではなく、本件係争地について被控訴人が持分二分の一を有することの確認の訴であるとすれば、右請求の認容されない場合を予想して、予備的に第二次的請求をなすことが考えられないではないが、本件の場合はまさしくこの仮定的な第一次的請求を第二次的請求として主張しているのであるから、重複を免れず、さらに第二次的請求をなす余地は存しない。もっとも、被控訴人は第二次的請求として本件係争地が控訴人および被控訴人の持分二分の一あての共有地であることの確認を求めているが、控訴人が本件係争地について持分二分の一を有することを被控訴人において求めることは確認の利益を欠くものというべきであって、この点においても原判決は審理不尽の違法があるものといわなければならない)。

よって、原判決は、上記理由により取消すものとする。もっとも被控訴人は当審において昭和四二年一二月六日付準備書面(訴の一部取下等)を提出しているが、前述の如く移審の効力を生じてない以上なお本件については原審において弁論をなす必要があるものと認め、民事訴訟法第三八九条第一項の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本敏男 裁判官 吉野衛 松本昭彦)

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